「何もしない」ことの効用について
「私?ただ生きているだけよ。でも、それだけだってけっこう忙しいの。」
(ベルナール・ウェルベル『蟻』2003)
1 「何もしない」って、なに?
(1)「有限である意志力を温存する」こと。
・我慢した後は、次の誘惑に負けやすい
→ (対策として)意志力を「使わないようにする」
→ 問題になりそうな状況を避ける
・意志力の使い方まで計画する
(ロイ・バウマイスター『意志力の科学』2013)
・脳のメモリを無駄遣いしない
・「もしも注意する必要がなかったら」
→ できるだけ多くの行動を自動化する
・必要なのは知識を増やすことではなく、ワーキングメモリに負担をかけない
→ あらたなやり方を探すこと
(グレッグ・マキューン『エフォートレス思考』2021)
(2)「資源の節約」
「いったん人生の優先順位を決めたら、さして重要でない選択肢は放棄するか、自動化してしまう」
(橘玲『シンプルで合理的な人生設計』2023、p200)
「人生の優先順位を決め、それ以外のものを(ミニマリズムの手法で)徹底的に合理化すれば、その分だけ大事なことに多くの資源を投入できる。」
(橘玲、p328)
「本当に重要なのは何か?」
それ以外のことは、全部捨てていい。
(グレッグ・マキューン『エッセンシャル思考』2014,p294)
2 何をやるの?
(1)「やらないこと」を最大限に増やす
・最終的な目標が何であれ、価値を生み出すステップにだけ集中する
・無駄な手順には機会コストがかかる。本質的でないステップを取り除けば、その分本質的なことに使える時間やエネルギー、脳のリソースが増える
(マキューン『エフォートレス思考』)
(2)「特別なことをしない」をする
違う環境で、いつもやってることをやる
「旅先でも一切特別なことはしない。観光名所なんか一人で行ってもつまらない。景色なんて見ても2分で飽きる。食事も一人の時はできるだけ短時間で済ませたい。
マクドナルドで100円のドリンクを飲みながら持ってきた本を読んだりスマホでネットを見たりする。」
(pha『ひきこもらない』2017)
「学ぶこと、そして趣味に(回帰し)没頭することだけでも、素晴らしい旅の過ごし方だ。「そんなこと、どこでもできるのに」という罪悪感はいらない。ビーチで日焼けしないともったいないと思う必要もない。違う環境でやれば、心向きも違ってくる。」
(ジョン・フィッチほか『戦略的休息術 タイム・オフ』2023.4、p355)
(3)受け入れる(あるがまま)
「問題がある」状態を楽しむ
→ 「すべての問題を解決済みにする」という達成不可能な目標を諦めよう。そうすれば、人生とは一つひとつの問題に取り組み、それぞれに必要な時間をかけるプロセスであるという事実に気づくはずだ。」
(オリバー・バークマン『限りある時間の使い方』2022、p210)
「人間であることの痛みはつらい。でも禅僧のシャーロット・浄光・ベックが言うように、それが耐えがたいのは「治療法があるかもしれない」と思っているときだけだ。痛みが必然であることを受け入れれば、自由がやってくる。」
(バークマン、前掲書、p253)
「解決できる問題は、すでに解決されてしまっている。だとしたは残された問題は、なんらかの制約があるために単純な解決が不可能なもの、すなわちトレードオフだけだ」
(橘玲、前掲書)
重力問題
「解決できない問題を解決しようとして悩むのは人生の無駄」
(橘玲、前掲書)
3 なぜ「なにもしない」のは困難なのか?
どっちがボールを持ってる?の問い。
不完全な解決でも、とにかく手放してしまいたい。
そのためにもがいてしまう。
「難しい問題に直面した時、僕たちは未解決の状態に耐えられず、とにかく最速でなんとかしたいと思う。コントロールできないという不快感を逃れるためなら、本質的な解決策でなくても気にしない。だから意味もなく相手にキレてしまったり、うまく進まないプロジェクトを投げ出してしまったり、始まったばかりの恋愛を放棄してしまったりする。」
(バークマン、p209)
(2)(偽りの)達成感を得たい(焦燥感)
「おそらく多くの人は、愛するものかもなにかを立ち止まって考えることもせずに、偽りの目標に向かって走り続け、忙しさという名の不満足で溺れかけている。
溺れている方が、真剣に考えるよりもずっと楽だからだ。」
(フィッチ、前掲p299)
「何ひとつ達成できなかった。それでいて、過労で死んだ」
(シオラン『告白と呪詛』1994)
4 先賢の教え
・「そのわけを訊ねた一人に答えて、紀昌は懶げに言った。至為は為す無く、至言は言を去り、至射は射ることなしと。」
(中島敦『名人伝』)
・「すべての行動の基本は余暇である」
アリストテレス(出典?)
・唯だ虫能く虫たり、唯だ虫能く天たり。
(『荘子』庚桑楚篇)
・マルクス・アウレリウス・アントニヌス
「きゅうりが苦い?捨ててしまえ。いばらの道が目の前にある?避けて通れ。それだけのことだ。」
「静けさを求めるなら、動きを減らすべきだ。つまり、絶対に必要なことのみを行うのだ。すべきことは、少なければ少ないほど、いい。不可欠なものはそんなには多くない。それ以外を排除すれば静寂が訪れる。いつの瞬間も自問するのだ。『これは真に必要か?』と。」
5 文献
ジョン・フィッチほか『戦略的休息術 タイム・オフ』2023
橘玲『シンプルで合理的な人生設計』2023
オリバー・バークマン『限りある時間の使い方』2022
グレッグ・マキューン『エフォートレス思考』2021
pha『ひきこもらない』2017
グレッグ・マキューン『エッセンシャル思考』2014
ロイ・バウマイスター『意志力の科学』2013
シオラン『告白と呪詛』1994